大阪地方裁判所 昭和24年(ワ)1828号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
(事實)
原告は昭和二十二年二月頃紅粉正兵衞から本件土地建物を今川理介の仲介で買受け同年六月二十一日頃迄に今川を通じて代金を支払い今川に登記手続を依頼し今川は同月二十四、五日頃紅粉から権利証書、印鑑証明書、紅粉名義の白紙委任状等を受取つた。ところが被告は同年七月九日右委任状等を使用して本件土地建物について紅粉を売主、被告を買主として売買に基く所有権移転登記をした。
原告は右登記は事実に吻合しないものであるとしてその抹消を求める。
被告は、原告が紅粉に支払う代金に窮し今川に転売方を委任し被告は同年六月十七日被告の代理人今川から買受け内金を支払つて紅粉原告間の売買契約証書を受取り同月二十八日残代金を今川に支払い紅粉の委任状等を受取つたのであり仮に今川に転賣の代理権がないとしても被告がそのように信ずる正当な理由があると抗争する。
原告は、被告が原告及び紅粉に一度も面会していないこと、今川の持参した書類中には原告よりの転賣の委任を証するものがないこと、紅粉の委任状等を今川が呈示したのは転賣契約後であること、被告の受取つた領收証には原告の捺印がないこと等を指摘して被告がそのように信ずることには重大な過失があると反駁し、仮にそうでないとしても本件登記は次の理由で無効であると主張する。
(1) 本件は被告主張によれば中間省略登記であるのに紅粉も原告も中間省略登記について同意したことはない。
(2) 本件登記は申請に必要な書類が提出されていない。先ず原因証書が提出されていない。本件登記は「原因証書作成せざるにつき申請副本添付」としてされているが、不動産登記法第四十条は適法な登記原因が存在しながら原因証書がなく或はやむを得ぬ事情で提出できない場合に適用さるべきであつて原因証書が作成されてあるが容易に作成し得る本件の場合は同条の適用がない。また中間省略登記とすれば原告の中間省略承諾書が必要であるのに提出されていない、なお中間省略登記でも登記名義人から新所有名義人は移転した道程を登記申請書及び登記簿に記載しなければならないのに本件登記ではされていない。
(判斷)
原告敗訴。
判決は被告が原告の代理人と称する今川からその主張のようにして本件土地建物を買受けたことを認めたが、今川に転賣の代理権があつたとは認められないとし、しかし今川が前に原告の代理人として他の家屋を買受けたことを被告が他から聞いていたこと及び今川が紅粉原告間の賣買契約証書や登記に必要な書類を被告に交付したことから考えて被告が今川に轉賣の代理権があると信じたのは不自然でなく原告主張の諸事実だけでは被告に重大な過失があるとは認められないとした後、原告のその他の主張について次のように述べてこれをすべて排斥した。
(1) 紅粉も原告も中間省略登記について同意していないという点については紅粉の白紙委任状等から紅粉の同意があるとしまた意見代理人今川が紅粉の委任状等を被告に渡したことにより原告の承諾の効力があるとした。
(2) 申請に必要な書類が提出されていないという点については中間省略登記のため原因証書が作成できない場合でも原因証書の提出を要せずまた中間者の同意書の添付は必要でないとして次のように判示し、なお中間省略登記では登記名義人から新所有名義人への移動過程を記載する必要はないと判断した。
「次に原告は被告の登記申請については必要書類たる原因証書及原告の同意書が添付されていない旨主張し、被告は右事実を認めているが、中間省略登記に於ては、原因証書が存在しないか、作成し得ない場合があり得るのである。本件についてみるに、賣主紅粉から直接被告に所有権移転登記を為すのであるから、紅粉と原告間の賣買約証書も、又たとえ、原告と被告間に賣買契約証書を作成したとしても、何れも紅粉と被告間の原因証書とすることはできない。又原告主張のとおり紅粉作成の不動産賣渡証書(乙第三号証)を補充して紅粉から直接被告が買受けたとすることは、眞実に符合しない虚僞文書を作成することになるから、(紅粉の同意を得て作成すれば格別)之を以つて原因証書とすることはできない。かかる場合原因証書が存在しないものとして、登記の申請書の副本を提出し、登記を申請することは、不動産登記法第四十条の認めるところである。そして登記申請に際して原因証書を提出する趣旨は、一つは登記官吏をして登記原因の存否を一応審査せしめ、以つて登記の眞正を保障せんとするにあるのだが、主として登記済証を作成するの便宜に出ずるものであるから、本件のような場合申請書副本の提出ある以上、原因証書又は同意書或は承諾書の提出がなくても、該登記申請が法定の要件を欠いたものと云うことはできないし、固より之に基く登記が無効であるとは云えない。又不動産登記法第三十五条第一項第四号には登記原因に付き第三者の許可、同意又は承諾を要するときは、之を証する書面を提出することを要する旨規定されているが、右は登記原因についての問題であり、これらを欠くとき登記原因が無効となる場合や対抗力を取得し得ない場合、取消し得べきことなる場合を言うのであるから、中間省略登記における中間者の同意があつたことについては、之を証する書面を添付する必要はない。」